トロヤ戦争終結後、晴れて目出度くオデュッセウスとアラゴルンは夫婦となりイタケで暮らしていたのですが、そんなある日の出来事です。


「無論わたしに決まっているだろう」
「いいや、俺だ」
 アポロンの天翔る馬車が去った後は、風も涼しくおだやかな夜が来る。イタケのオデュッセウスの館では、アキレウス、パトロクロスの友人らを向かえ酒宴が開かれていた。
 すでに夜も更け、泥酔したパトロクロスは酒瓶を抱えたまますでに大きく鼾をかいて床の上で熟睡している。一方、その横ではオデュッセウスとアキレウスが酒の肴に議論を戦わせていた。
「おまえみたいな堅物は、経験が足りなすぎる。俺なら、場数を踏んでいるからな」
「おまえは所詮、刹那的な快楽主義者だ。愛のなんたるかを知らぬ。おまえに見せてやりたいものだ、わたしの腕の中であの人がどんな顔をするか」
「ふん、あいつに惚れられているからって、珍しく自信たっぷりだな。おもしろい、では勝負するか?」
「いいだろう、受けて立とう」**

 

「…で、おまえ達は、その馬鹿ばかしい議論を実践で証明することにしたって?」
 寝所に突然乱入してきた二人の男達の顔を見比べると、アラゴルンはあきれたように言った。
「これには男の面子がかかっている」
 明らかに酔っぱらった調子でオデュッセウスが言うと、アキレウスも続けた。
「どちらが、よりおまえを乱れさせられるかで俺達は賭けをしたんだ」
 二人の酔っ払いを睨み付けると、アラゴルンは憤然と云った。
「おまえ達には付き合いきれない!二人でお互いのテクニックを確かめ合えばいいだろ、この寝台を明け渡すから好きにしろ!わたしは他で休む!」
 そう言って寝室から出て行こうとしたアラゴルンの腕を、オデュッセウスが捕らえた。
「あなたがアキレウスに触れられるのは我慢がならないが、見せ付けてやればいいだけのことだ」
「おまえ酔っているな…!…わっ、オデュッセウス!離せ…!この悪党…!」
 腕に捕らえたアラゴルンの感じやすい場所に手を這わせると、たやす容易くアラゴルンの四肢から力が抜けていく。
 ほら見ろと、自慢そうに、アキレウスにちらりと目をやったオデュッセウスに、アキレウスが顔色一つ変えずふてぶてしく云った。
「ふん、余裕かましていられるのは、今の内だけだ。後でほぞを噛むなよ」
「おもしろい、お手並みを見せてもらおうじゃないか」

 二人がアラゴルンに挑みかかろうとした瞬間だった。アラゴルンが素早く動いてオデュッセウスの腕を逃れると、寝台脇に置かれた小卓の上の素焼きの壷を振り上げて、不埒な酔っ払いどもの頭に、がごん!と一発ずつ喰らわせた。

**

 明けて翌朝、目覚めたオデュッセウスが二日酔いに痛む重い頭を抑えながら起き上がってみると、そこはアラゴルンの寝台の上で、横には盛大ないびきをかいて熟睡しているアキレウスがいた。が、妻のアラゴルンの姿はどこにも見当たらなかった。
 夕べの事を思い出したオデュッセウスは、酔っ払った勢いとはいえ、自分の言動を思い出して蒼白になり、ガンガン響く頭を押さえて慌ててアラゴルンを探しに行った。
 昨夜パトロクロスと共に酒宴を張った部屋から、丁度後片付けをしている下働きの雇い人が出てきた。
「アラゴルンを見なかったか!?」
 語気鋭く尋ねたオデュッセウスに向かって雇い人は言った。
「奥方様なら、今朝早く出ていかれました」
「出ていった!?ど、どどど、どこへ!?」
 慌てて問い詰めると、雇い人はのんびりと言った。
「へぇ、パトロクロス様とごいっしょに馬で出ていかれました」
「パトロクロスと?!」
「そういえば、旦那さまに伝言を頼まれておりました。
『誠実な友としばらく旅をしてくる。不誠実な夫の元へ戻るかは、よくよく考えてからにしたい。』
だそうです。何やら怒っておいでのようでしたが。何かございましたか?」
 うーんとオデュッセウスが頭を抱えていると、起き出してきたアキレウスが後ろから声をかけた。
「どうした、三くだり半でも突きつけられたか」
 振り向くと、その顔にはにやにやと、いかにも事の成り行きを楽しんでいるのが明らかに見て取れたので、オデュッセウスは怒鳴った。
「そもそもおまえがくだらない議論をふっかけてきたせいで…!」
 皆まで言わせずアキレウスがチャチャをいれた。
「おまえこそ、いかに自分があいつに惚れられているか俺に見せ付けたかったんだろうが。知将と名高いオデュッセウスも、ヤツのこととなるとその体たらくとは、恋とは恐ろしいものだな」
 反論しようにも、痛いところをつかれて口をぱくぱくしているオデュッセウスに追い討ちをかけるようアキレウスが言った。
「夫婦の危機、大いに結構。さぁて、俺は国に帰って求婚の贈り物でも揃えてくるかな」
「きゅ、きゅ、きゅ、求婚の贈り物とはどういう意味だ…!?」
「無論、お主と別れたアラゴルンにすかさず求婚するためさ」
 それを聞いた途端、オデュッセウスはぱくぱくさせていた口を閉じて、大きく息を吸い込むと威厳のこもった声で言った。
「プティアの王子、アキレウス!我が王妃への下心をあからさまにした罪で、しばらくイタケを退去する事を禁じる。ついでに、私が帰ってくるまで、あらゆる脅威からイタケを守る事を命ず!!」
 そう言い放つと、オデュッセウスはアキレウスの返事も聞かずに、厩へと走り、そのままアラゴルンを追いかける為に馬に乗って、大きく土煙を上げて去っていってしまった。
 アキレウスはそれを何もいわずに見ていたのだが、そばにあった寝椅子にどさりと座ると、事の成り行きを目を丸くして見ていたくだんの雇い人に言った。
「おまえ、聞いたか?あの勝手な言い分を。どうやら、俺は当分イタケの統治を任されたらしい。」
「はぁ、そのようで…」
「では、イタケの仮の統治者へ、まずは酒を持ってきてくれるか?」
 雇い人は、深く礼をすると(おそらくこらえていた笑いを隠す為であろう)、アキレウスの要望にしたがうために奥へと下がった。

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 酒を飲みながら、アキレウスは思った。
------------まったく、夫婦喧嘩は犬も食わぬというにの、俺ときたら犬以下に成り下がったらしい。
 もしオデュッセウスが嫌いになれるものなら、そしてアラゴルンへの想いを絶ち切れるものなら、こんなややこしい事にはならないだろうに。
 彼はため息をつくと、またぐっと酒を飲み干した。
 恋は厄介だが、友情も厄介だなとアキレウスは思い知った。

 

 全くもって、今の彼にできるのは酒をあおるくらいだったのである。


キリリクは、オデ、アラ、アキの3P〜だったんですが、結局お茶を濁してしまいましただ。へたれなこってすまんです。(遁走)